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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
眼ざす私の舞台は漠として分らなかったが、それは今日の農会の人の集りのようでもあれば、強盗横行の東京のようでもあり、そのどちらでもない、荒れ狂った濁流の世の若さが、今見る雪の飛び交うさまに見えたりしているようでもあった。
午後家を出てから長靴で、雪を踏むときも、つねになく私は元気であった。釈迦堂まで行く参道の両側の杉が太く雪の中に幹を連ねて昇っている。石畳のゆるい傾斜の途中に山門が一つあって、左手に谷のように低まった平野が雪で掩われている。いま私の会おうとしている人たちは、この広い平野全面の村村に設計を与え、実行に押しすすめ、危機に応じる対策を練り、土地と人との生活の一切に号令を下している本部である。私と何の関係もない人人であるが、私はこの健康な人人の意志の片鱗をただ一言覗けば良い。この人たちの私に需めるものは、おそらく批評であろう。それらの人人の失望することは疑いないが、私にはただ利益あるのみであった。
集りは本堂の北端にある和尚の書院だ。清潔な趣味に禅宗の和尚の人柄が匂い出ていて抹香臭なく、紫檀の棚の光沢が畳の条目と正しく調和している。正面の床間の一端に、学生服の美しい鋭敏な青年の写真が懸けてある。