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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

愛国心は誰にもあり、敵愾心は誰にもないという長い戦争。そして、自分の身体をこの二つの心のどちらかへ組み入れねば生きられぬという場合、人は必ず何ものかに希願をこめていただろう。何ものにこめたかそれだけは人にも分らず、自分も知らぬ秘密のものだ。しかし、人は身の安全のためにそうしたのではない。たとえそれは間違ったものに祈ったとしても、そこに間違いなどという不潔なものなど、も早や介在なし得ない心でしたのである。それは狐にしようと狸にしようと、それ以外には無いのだから通すところのものはどうでも良い、有るものを通して天上のものへしていたのにちがいないのだ。ここに何ものも無い筈はない。

おそらく以後進駐軍が何をどのようにしようとも、日本人は柔順にこれにつき随ってゆくことだろう。思い残すことのない静かな心で、次ぎの何かを待っている。それが罰であろうと何んであろうと、まだ見たこともないものに胸とどろかせ、自分の運命をさえ忘れている。この強い日本を負かしたものは、いったい、いかなるやつかと。これを汚なさ、無気力さというわけにはいかぬ。道義地に落ちたりというべきものでもない。