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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
まだ去年までなかったものが生れているのだ。のっそりとをしたり、眼をぱちくりさせたり、鬣を振ってみたり、――それにもう刈りとられて仕舞うその早さ。あくなき人の残酷さ。
参右衛門は脚に瘍が出来て一晩眠れずに苦しみ通し、今日は遠方まで医者通いだ。久左衛門は、茄子畑へ明礬を撒けば来年も連作が出来るので、茄子にしようか、馬鈴薯にしようかと朝から迷っている風だ。
この夜、砂糖二十匁ずつ配給。夕方の六時から十一時まで、皆を並ばせた前で、計ってみたり減らしてみたり、最後に五百匁が足りなくなると、また皆のを取り上げ、計り換えて減らしたり。村へ甘さ一滴落ちて来るとこんなものだ。
九月――日
馬の足跡にしみ込んだ雨水に浮雲の映っている泥路、この泥路を一里、大豆の配給を受けに妻と私と二人で行く。配給所へ着いてもまだ肝心の豆が着いていない。群衆は居眠りして待っている。すると、そのとき野末の遠い泥濘の真ん中で、大豆を積んで来た牛車が立往生して動かないのが見えた。「あれだあれだ。」という声声にみな眼を醒して望む。しかし牛は突いても打っても動く様子がない。しびれを切らした群衆は、牛が動いては停るたびに、いら立ち騒ぎ、手んでに牛をぶっ叩く真似をする。