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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

このようなことを巫女の口を通した言葉として清江が言うとき、それを傍で聞いている末の子供の十二になるのが、恐がって、ぴったり清江の膝に喰っついたまま離れない。電灯の消えた部屋は真暗で、炉の火だけ明明と揺れている。

九月――日

暴風はすんだ。稲は倒れてしまったが、雨が風に吹き込んでいたために、穂に重みが加わり、頭をふかく垂れ下げて互いに刺さり込みあったその結果、実が風に擦り落されずに済んだ。これが風だけだと擦れあい激しく、実が地に落ちてしまって去年のようになるという。しかし、稲の代りに野菜類の実がやられた。稲さえ無事なら先ず今年の米は不作としても、危機だけは切りぬけられたというものだ。

暴風の後は上天気だ。米のない連中は早稲の刈り入れにかかっている。すでに刈り入れをすませてあった早稲の分は、充分だったといわれなくとも、何とか米にはなる程度に乾いている。少しの量だが、新米の出るまでの喰いつなぎには役立つほどだ。これで村から、死ぬ死ぬという声だけは聞かずともすむ。

「去年よりはまだましだ、去年は風ばかしだったでのう。」

と、空を見上げ田を眺めて洩す明るい笑顔が見える。