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よるのくつ
夜の靴
横光 利一
――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页
私が働かないという弱点をもって眺め暮していることは、しかし、一つの大きな良い結果を私に齎している。それは私はこのため農民を尊敬しているということだ。この尊敬を自分から失わない工夫をするには、先ず彼らと共に働かない方が良い。正当な批判というものはあり得ないというある種の公理が、公理らしくもある以上、これもそれ故に間違っているかもしれないが、一応先ずそれはそれとしてみても、比較的正しさに近づく方法としてでも、傍観の徳ということは有り得るのである。何も傍観することを徳として、自分の味方たらしめようとするわけではない。しかし、人の労働する真ん中で、一人遊んでいる心というものは、誰からも攻撃せられるにちがいない立場であるだけに、少しでも味方を得たいものである。いったい、誰を味方に引き入れれば良いのであろうと考えると、やはり自分よりないものだ。そこで私は自分を私の味方とする。私はこれがいつでも嫌いなのだが、嫌いな奴まで手馴ずける工夫だって、これで容易ならざる努力がいるのである。傍観の苦しさには、働いているものには分ろう筈がない徳義心がここに必要で、私の愉しみはここから何か少しずつ芽の出てくるのを感じ、それの伸びるのを育て眺める愉しみだ。