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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

「お前雪子という女知ってるか……?」

伊部はいきなりきいた。

豹吉ははっとした。伊部が雪子を知っているとは意外だった。が、それよりもなぜ、いきなり雪子の名を口にしたのだろうか。

朝の構図

「偶然というものは、続きだすときりがない」

と、作者はかつて書いた。

「偶然のない人生ほどつまらぬものはない」

とも書いた。

例えば、小沢十吉!

普通なら、彼は復員直後の無気力な虚脱状態のまま、一種、根こぎにされた人となって、ぼんやり日を送ったところだろうが、深夜雨の四ツ辻で、裸の娘を拾ったという偶然は、次々に偶然を呼んで、まるで欠伸をする暇もないくらい、目まぐるしい一昼夜を過したのだ。

いわば、雪子を拾った夜から青蛇団の一党を自首させた夜までのまる一昼夜くらい、充実した時間は、かつて小沢を訪れなかった――と言えよう。

しかも、なお、偶然は小沢をつきまとって離れなかったのだから人生は面白い。

雨男の行くところ、必ず雨を呼び起すように、この「偶然一代男」の行くところ、必ず降り掛かる偶然があるのである。

例えば――。

小沢はS署の玄関で、豹吉たち青蛇団を見送った足で、伊部の家を訪れると、伊部は(むろん)居らず妹の道子ひとり、しょんぼり留守番をしていて、