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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

「そりゃ君の知ってる男だけの話だ」

「…………」

「莫迦だなア、君は……。僕が好きでもないのに、そんなことをいう奴があるか。さアもう寝よう」

小沢はくるりと娘に背中を向けた。娘の商売が判ってしまうと、かえって狂暴な男の血が一度に引いてしまったためか。それとも一種のすねた抗議の姿態だろうか。

娘は暫くだまって肩で息をしていたが、いきなり小沢の背中に顔をくっつけて、泣き出した。

「何を泣いてるんだ……?」

小沢はわざと冷淡な声を出しながら、窓の外の雨の音を聴いていた。……

悪の華

午前六時の朝日会館――。

と、こうかけば読者は「午後六時の朝日会館」の誤植だと思うかも知れない。

たしかに午前六時の朝日会館など、まるで日曜日の教室――いや、それ以上に、ひっそりとして、味気なくて、殺風景でいたずらにがらんとして、凡そ無意味な風景であろう。

しかし、午前六時の朝日会館を描くことは、つねに無意味だとは限らない。

例えば、そんな時刻、そこには鼠は走り廻っても、猫の子一匹もいない筈だのに、時ならぬ、場違いの鼾が聴えて来たとすれば、もはや無意味ではあるまい。まして月並みではない。