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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「復員の荷物みたいなもン、一つもないぜ」
係員は棚の荷物をちらと見廻して言った。
「しかし、預けたことはたしかに預けたんですから……」
ない筈はないと、小沢が言うと、
「ないもンはない。――誰ぞ取りに来たんやろ」
「取りに来た? ……誰がですか」
「そら知らん。――だいいちチケットを落すのが悪い」
係員はすっと奥へはいってしまうと、もう小沢がいくら呼んでも出て来なかった。
小沢はがっかりして、梅田の闇市場の中にある食堂へはいって行くと、ここにもまた大阪の憂鬱があった。
小沢は朝から――というより、昨夜から何も食べていなかった。
米を持っていなかったから宿屋では食事を出してくれなかったのだ。
実は、復員の時にもらった三日分の米を、毛布の中へくるんで大阪駅へ預けて置いたのだった。
それを受け取って、毛布や長靴を売って、雪子の著物を買い、宿に帰って米を炊いてもらおうと正直に考えていたのだ。
外で食事が出来るとは、考えも及ばなかったのだ。
だから、預けた荷物がいつの間にか無くなっていたと判ると、小沢は何よりも先に、
「今日は何にも食えないかも知れんぞ!」
と、まずそのことを諦めた。