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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
そして、中風やみのようにぶるぶる手足をふるわせながら、しょぼんと立っていたが、ふと小沢の足許に二、三粒の飯粒が落ちているのを見るとあっという間にしゃがんで、その飯粒を口に入れた。
小沢は思わず顔をそむけた。
「昔は乞食もこんな浅ましい真似はしなかった。やっぱり日本は哀れな国になってしまったのか……」
外で米の飯が食べられる余裕があったのかという咄嗟の安心感は、簡単に消えて、恥も外聞も見栄ももうこの国の人間は失ってしまったのかと情けない――というよりむしろ腹が立った。
しかし、さすがにその少女があわれで、何か食べさせてやろうと思った途端、隅の方に坐っていた男が、ちらと鋭い眼を輝かせて、
「おい!」
と、その少女を呼んだ。
「…………」
娘はだまって振り向いた。
呼んだのは、四十五六の角刈の男だった。
和服の着流しに総しぼりの帯、素足に革の草履――という身なりは、どこか遊び人風めいていたが、存外律義そうな顔立ちで、
「腹が空いてるのンか」
と、きいた声は、女のように優しかった。
「…………」
娘は答えず、きょとんとした眼で男を見ていた。
「食べたいか……?」
と、男はにぎり寿司の皿を指した。