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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「じゃ……」
起ち上ろうとするのを道子は、
「あらッ。――いまお茶を入れますから……」
このまま小沢が帰ってしまうことが、思いがけず寂しかった。
がなぜ、そんなに寂しいのだろう。
「そうですね。じゃお茶だけ……」
いただきましょうと、小沢は坐り直したが、しなければならないことが山ほどありながら、ふと自分をひきとめたものは、一体何であろうかと、小沢は道子の顔から、あわてて眼をそらした。
その拍子に、雪子の顔がちらと浮んだ。自分の帰りを待っている雪子の顔が……。著物、帯、下駄……。
道子は湯呑みを出そうとして、水屋の戸をあけようとした。
その時、いきなりはいって来た男が、
「おっと……、それ、あけちゃ困りまっせ」
と、道子の手を払おうとした。
「なぜいけないんだ?」
小沢は道子の分までむっとして怒鳴るように言った。
「封印がしてまっさかいな」
男はにやにやした。
「一体、伊部君はいくら借りたんです」
「千円です」
道子が言うのと同時に、男は、
「二万三千円……。元利合計してまっさかいな。へ、へ、へ……」
「千円が二万三千円……? そんな莫迦な……」
「伊部さんにきいてみなさい。