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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
「莫迦をいえ! 掏摸は……」
あいつだと、小沢は毛虫を噛んだような口で、怒鳴るように言った。
「阿呆らしい」
と、亀吉は不平らしい唇を尖らせて、
「――わての方が本物の掏摸だす」
虚栄を張っているのが、おかしかった。
「本物……?」
「へえ、わては大阪一の掏摸で、五寸釘の亀吉いいまんねン」
小沢は危く噴き出しそうになった。それほど自称五寸釘の亀吉の顔は、きょとんと間が抜けていた。
「――その証拠に……」
亀吉はひとごとのように言った。
「――わては昨日ちゃアんとあんたを掏りましたぜ」
「えっ……?」
驚いたが、驚きはすぐ過ぎ去って、小沢はもとの表情になった。
いや、むしろにやりとした笑いすら泛べて――小沢は亀吉に言った。
「莫迦をいえ。おれは君なんかに掏られるもんか。掏られたおぼえは……」
「……おまへんか。え、へ、へ、……」
と、亀吉は奇妙な笑いを笑って、
「――ほんまだっか」
嘗めるような視線で、小沢の眼を嘗め廻した。
小沢はふと不安になったが、
「だいいち、掏られるものなんか、持ってるものか」
と、突っ放すように言った。
が、亀吉は突っ放されず、もう一度、
「え、へ、へ……。