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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

次郎ははじめて意識を取り戻して、そう呟いた。が、三郎を残して、自分ひとり逃げては、三郎は可哀想だと思って、じっとしていた。

そして、金を渡した針助が、再び次郎の手首を掴もうとすると、次郎の方から手を出したくらい、もう何もかも素直に諦めていた。

針助は電車を降りると上本町八丁目の方へ歩いて行った。七丁目の、もと停留所のあったところに、交番の灯が見えた。

「向うへ連れて行くんやな」

次郎と三郎はお互の青ざめた情けない顔を見合ったが、針助は黙々として、その前を通り過ぎた。交番の中では、若い少年巡査がきょとんとした眼で、こちらを見たが、べつに誰何しようともしなかった。

次郎と三郎はほっとした。そして、

「一体どこイ連れてゆくんやろ」

と思って引きずられて行くと、外語学校前を東へ折れ、四ツ辻まで来ると、南へ曲った。

そして半町も行った頃だろうか、門燈のあかりが鈍く点っているしもた家の前まで来ると、針助は立ち停った。

「ここや」

針助は袂から鍵を出して、玄関の戸をあけると、

「――はいれ」

家の中はひっそりとして、人の気配はなかった。針助の一人ぐらしの家らしい。

それがかえって、薄気味わるかった。