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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

いつもの豹吉なら、そんなに狼狽しなかった筈だ。そんなに警官を怖れなかった筈だ。

「ところが、今夜のおれと来たら……」

と、豹吉は自分の醜態にあいそがつきるくらいだった。

「――なぜ、こんなに怖れるのか」

と、考えて、豹吉はどきんとした。人を殺したからだ。

早朝、渡辺橋の横で魚を釣っていた男(読者にはもはや明瞭と思うが、実は伊部恭助である)を、いきなり川の中へ突き落してしまったのだ。

動機といっても、べつに大した動機ではない。ただ、

「何かこう人をあっといわすような、意想外の、破天荒なことをしてみたい」

という単純な思いつきに過ぎなかったのだ。

横紙破りの、ちょっと他人には真似ることの出来ないいたずらだったから、やってみると、快感はあったが、しかし、そのいたずらが結局殺人行為となってみると、いかな豹吉でも、さすがに薄気味悪い後味は心の底に残っていた。

そして、そんな自分をあざ嗤っていた。

「なんや、怖がってるのンか。青蛇団のペペ公といわれるおれともあろうものが……」

そう呟いた途端、豹吉は急にひょんなことを思いついた。

「――そや、もう一ぺん渡辺橋イ行ってやろう」