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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

02 第一部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,315 字 · 25 页

青空文庫

将軍は病気、京都守護職の松平容保も忌服とあって、名代の横山常徳が当日の供奉警衛に当たった。景蔵に言わせると、当時、鱗形屋の定飛脚から出たものとして諸方に伝わった聞書なるものは必ずしも当日の真相を伝えてはない。その聞書には、

「四月十一日。石清水行幸の節、将軍家御病気。一橋様御名代のところ、攘夷の節刀を賜わる段にてお遁げ。」

とある。この「お遁げ」はいささか誇張された報道らしい。景蔵はやはり、一橋公の急病か何かのためと解したいと言ってある。いずれにしても、当日は必ず何か起こる。その出来事を待ち受けるような不安が、関東方にあったばかりでなく、京都方にあったと景蔵は書いている。この石清水行幸は帝としても京都の町を離れる最初の時で、それまで大山大川なぞも親しくは叡覧のなかったのに、初めて淀川の滔々と流るるのを御覧になって、さまざまのことを思し召され、外夷親征なぞの御艱難はいうまでもなく、国家のために軽々しく龍体を危うくされ給うまいと慮らせられたとか。帝には還幸の節、いろいろな御心づかいに疲れて、紫宸殿の御車寄せのところで水を召し上がったという話までが、景蔵からの便りにはこまごまと認めてある。