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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

02 第一部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,315 字 · 25 页

青空文庫

ちょうど表には大名の駕籠が待っていました。大名は騒ぎを聞きつけて、ようやくその侍を取りしずめたそうですがね。どうして、この節は油断ができません。」

「そう言えば、十万石につき一人ずつとか、諸藩の武士が京都の方へ勤めるようになったと聞くが、真実だろうか。」

「その話はわたしも聞きました。」

「参覲交代の御変革以来だよ。あの御変革は、どこまで及んで行くか見当がつかない。」

こんな話をしたあとで、吉左衛門は思わず時を送ったというふうに腰を持ちあげた。問屋場からの出がけにも、彼は出入り口の障子の開いたところから板廂のかげを通して、心深げに旧暦四月の街道の空をながめた。そして栄吉の方を顧みて言った。

「今まではお前、参覲交代の諸大名が江戸へ江戸へと向かっていた。それが江戸でなくて、京都の方へ参朝するようになって来たからね。世の中も変わった。」

吉左衛門の心配は、半蔵が親友の二人までも京都の方へ飛び出して行ったことであった。あの中津川本陣の景蔵や、新問屋和泉屋の香蔵のあとを追って、もし半蔵が家出をするような日を迎えたら。その懸念から、年老いた吉左衛門は思い沈みながら、やがて自分の隠居所の方へ非常に静かに歩いて行った。