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よなきてっこつ

夜泣き鉄骨

海野 十三

「新青年」1932(昭和7)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 页

青空文庫

わしは、一と通りの探険注意を与えると、一行の先頭に立ち、静かに、構内を、第九工場に向って、行進を始めたのだった。地上を匍うレールの上には、既に、冷い夜露が、しっとりと、下りていた。

「電纜工場は、夜業をやってるぜ」

「満洲へ至急に納めるので、忙しいのじゃ」

誰かの声に、そっちを見ると、電纜工場だけが、睡り男の心臓のように、生きていた。高い、真黒な大屋根の上へ、鉛を鎔かす炉の熱火が、赫々と反射していた。赤ともつかず、黄ともつかぬ其の凄まじい色彩は、湯のように沸っている熔融炉の、高温度を、警告しているかのようであった。

「組長さん」組下の源太が云った。「おせいさんは、もう身体は、いいのですかい」

おせいは、実は、わしの妾だった、だが、世の中の妾とは違って、昼間は、この工場で働かせ、わしの顔で、電纜の紙捲きという軽い仕事をやらせ、日給は、女性として最高に近いものを、会社から払わせてあった。夜になると、身粧いをして、合宿から抜け出してくるわしを迎えて、普通の妾となった。

「うん、もういいようだ。今夜も、あの電纜工場で、稼いでいる位だァ」

「うふ。組長は、万事ぬかりが、ねえな」