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よながひめとみみお

夜長姫と耳男

坂口 安吾

「新潮 第四九巻第六号」1952(昭和27)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,604 字 · 56 页

青空文庫

お婆さんよ。あそこまで辿りついてちょッと拝んでいたと思うと、にわかに立ち上ってキリキリ舞いをはじめたのよ。それからヨタヨタ這いまわって、やっとホコラに手をかけたと思うと動かなくなってしまったわ」

ヒメの目はそこにそそがれて動かなかった。さらにヒメは下界の諸方に目を転じて飽かず眺めふけった。そして、呟いた。

「野良にでて働く人の姿が多いわ。ホーソーの時には野良にでている人の姿が見られなかったものでしたのに。バケモノのホコラへ拝みに来て死ぬ人もあるのに、野良の人々は無事なのね」

オレは小屋にこもって仕事にふけっているだけだから、邸内の人々とも殆ど交渉がなかったし、まして邸外とは交渉がなかった。だから村里を襲っている疫病の怖ろしい噂を時たま聞くことがあっても、オレにとっては別天地の出来事で、身にしみる思いに打たれたことはなかった。オレのバケモノが魔よけの神様にまつりあげられ、オレが名人ともてはやされていると聞いても、それすらも別天地の出来事であった。

オレははじめて高楼から村を眺めた。それは裏の山から村を見下す風景の距離をちぢめただけのものだが、バケモノのホコラにすがりついて死んでいる人の姿を見ると、それもわが身にかかわりのないソラゾラしい眺めながらも、人里の哀れさが目にしみもした。