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ゆめ
夢
和辻 哲郎
「新潮」1952(昭和27)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,436 字 · 25 页
爺さんはいかにも気の毒そうな表情をしたが、そうかねと言ったきり、何も説明してくれなかった。しかしその表情でわたくしは、爺さんが○○のやっていることに対して強い非難の気持ちを抱いていること、しかし口に出して非難するのを用心深く差し控えていること、爺さんが仲にはいって口をきいても○○の気持ちを変えさせる望みがないことを了解した。でわたくしは、爺さんの顔から気の毒そうな表情が消えないうちに、目的地の温泉場へ行くことを断念した。そうしてできるだけ早く大会へ欠席の旨を通知したいと思った。わたくしは爺さんに、電話のある家はなかろうかと聞いた。爺さんは、電話ならあのうちにあるがね、と浮かない顔をしながら、近所の大きい木に囲まれた家を指さした。
わたくしはなるべく早く電話をかけて、大会の人たちに事情を知らせたいと考え、急いでその家の方へ行った。そこはその家の横手で、草花などを植えた庭のよく見えるところであった。門はどこにあるか解らなかった。気がせくのでその庭の垣根のそばだか土手のそばだかへ近づいて行った。どんな垣根があったかははっきりしないが、そこから家へ近づいて行って電話の借用を申し込むつもりであったらしい。