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ゆめどのさつじんじけん
夢殿殺人事件
小栗 虫太郎
「改造」1934(昭和9)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,755 字 · 55 页
しかも、その創痕と云うのが、皮膚の外部から作った傷ではなくて、斑紋様に、内部から浮き上っているものなのです。従って、当然市中は大変な騒ぎとなりましたが、更に不思議な事には、翌朝になると、その耶蘇の屍体が何時の間にか消え失せてしまっていて、旧通、木製の耶蘇が十字架にかかっているのでした。所が、その後三世紀も奇蹟として続いて来たこの謎を、十九世紀の末になって、遂にジャストローが解いたのです。多分、聖痕と云う心理学用語を御存知でしょうが、あのフランス・カレッジの先生は、一人の田舎娘を見出して、それから聖像凝視が因で起る、一種の変態心理現象を発見したからなんですよ。で、そうなって………」と云いかけた法水の顔には、殺気とでも云いたいものが、メラメラと盛り上って来た。「そうなって、当時の瑞西を考えると、新教アナバプチスト派の侵入をうけていて、加特力の牙城が危胎に瀕していたのですからね。ですから、何んとはなしにその奇蹟と云うのが、司教の奸策ではないかと思われて来るのですよ。そうして、此の事件にも、私は奸悪な接神妄想を想像しているのです」
その間盤得尼は、ただ呆れたようになって、相手の顔を見詰めていたが、キュッと皮肉な微笑を泛かべて云い放った。