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むゆうびょうしゃのし

夢遊病者の死

江戸川 乱歩

「苦楽」プラトン社、1925(大正14)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,121 字 · 22 页

青空文庫

そして、遂には、あの思出してもゾッとする夢中の犯罪、あああ、俺は何という因果な男だろう。彼はただもう、身の不幸を歎く外はないのである。

今までの所では幸に、法律上の罪人となることだけは免れて来た。だが、この先どんなことで、もっとひどい罪を犯すまいものでもない。いや、ひょっとしたら、夢中で人を殺す様なことさえ、起らないとは限らぬのだ。

本を見ても、人に聞いても、夢遊病者の殺人というのは間々ある事らしい。まだ木綿問屋にいた頃、飯炊きの爺さんが、若い時分在所にあった事実談だといって、気味の悪い話をしたのを、彼はよく覚えている。それは、村でも評判の貞女だったある女が、寝惚けて、野らで使う草刈鎌をふるってその亭主を殺して了ったというのである。

それを考えると、彼はもう夜というものが怖くて仕様がないのだ。そして、普通の人には一日の疲れを休める安息の床が、彼丈には、まるで地獄の様にも思われるのだ。尤も家へ帰ってからは、一寸発作がやんでいる様だけれど、そんなことで決して安心は出来ないのだ。そこで、彼は、住み込みの勤めなど、どうしてどうして二度とやる気はしないのである。