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あやかしのつづみ
夢野久作怪奇幻想傑作選 あやかしの鼓
夢野 久作
夢野久作『夢野久作怪奇幻想傑作選 あやかしの鼓』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あやかしの鼓、死後の恋、瓶詰地獄、悪魔祈祷書。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 页
しかし若先生に会いたいという望みは「あやかしの鼓」を見たいという望みよりももっと果敢ない空想であった。
私は相も変らず肥え太りながらポコリポコリという鼓を打った。
こうして大正十一年――私が二十一歳の春が来た。その三月のなかばの或る日の午後、老先生は私を呼び付けて、
「これを鶴原家へ持ってゆけ」と四角い縮緬の風呂敷包みを渡された。
鶴原家ときくとすぐに例の鼓のことを思い出したので、私は思わず胸を躍らせて老先生の顔を見た。老先生もマジマジと私の顔を見ておられたが、
「誰にも知れないようにするんだよ。家は笄町の神道本局の筋向うだ。樅の木に囲まれた表札も何もない家だ」と眼をしばたたかれた。
私は鳥打に紺飛白、小倉袴、コール天の足袋、黒の釣鐘マントに朴歯の足駄といういでたちでお菓子らしい包みを平らに抱えながら高林家のカブキ門を出た。
麻布笄町の神道本局の桜が曇った空の下にチラリと白くなっていた。その向うに樅の木立ちにかこまれた陰気な平屋建てがある。セメントの高土塀にも檜作りの玄関にも表札らしいものが見えず、軒燈の丸い磨硝子にも何とも書いてない。この家だと思いながら私は前の溝川に架かった一間ばかりの木橋を渡った。