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おおいなるもの

大いなるもの

宮本 百合子

「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社、1981(昭和56)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,492 字 · 7 页

青空文庫

彼の最も清浄な、涙組むまで美くしい心のあふれ出た「獄中記」の中で、

「基督は、何者にもまして個人主義者の最高の位置を占むべき人である」と云うて居る。

真の箇人主義は斯くあるべきではないか。

私の云う霊を失った哀れなる亡霊の多くは、箇人主義を称えて、自らを害うて顧見ない。

自己の上に輝ける真を得るためには、真を裏切らぬ事をなさねばならぬ。

真に近づいて真を得るのである。

箇人主義は、即ち自己完成主義であらねばならぬ。

自己完成は、真と一致したものであらねばならぬ。

私は、箇人主義を称える多くの人々の心を疑う。

彼の人々は、至上に自己を愛しながら自らの心を痛め、苦痛、不愉快を日一日と加えて行くではないか。真から一歩一歩遠ざかるが故に煩悶はますのである。

思いがけぬ醜い仮面の陰に箇人主義の真心は歎いて居る。

自己完成に思い至らぬ人の心をかこって居る。

私は、何のはばかる物もなく、箇人主義は即ち自己の完成主義であると叫ぶ。

永劫不変の真の中に、絶えずえんえんと焔を吐く太陽に向って私は、斯く叫ぶのである。

真の幹に咲く、箇人主義の花ほど偉大なるはない。実る自己完成の果実は、千万人の喉をうるおわす宙を蓄えて居る、と。