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おおとりものせんにんつぼ
大捕物仙人壺
国枝 史郎
「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页
その伊太郎は、本来は、小心で憂鬱の質であった。朋輩交際で芸者などは買ったが、深入りなどはしたことがない。それだのに今度の紫錦ばかりは、そういう事にいかなかった。つまりぞっこん惚れ込んだのであった。
こういう男女の落ち行く先は、古来往来同一である。夫婦になれなければ心中である。
驚いたのはお琴であった。
彼女は窃り訴え出た。「娘を誘拐した同じ一座が、今度は息子を誑かそうとします。どうぞお取締まり下さいますように」と。
勿論官では取り上げなかった。しかし全然別の理由から、立退きを命ずることにした。
この一座が掛かって以来、にわかに盗難が多くなって、風紀上面白くない。だから追い払おうと云うのであった。
鼬の芸当が人気を呼んでこの一座は評判が可かった。で生温い干渉では、引き払って行きそうには思われなかった。それに時代が幕末で、諸方には戦争が行なわれていた、官の威光も薄らいでいた。下手をすると逆捻を喰らう。
で疾風迅雷的に、やっつけようと云うことになった。
その夜二人はいつものように、肩を並べて茶屋を出た。
湖上は凄いほど静かであった。空を仰げばどんよりと曇り、今にも降ってきそうであった。