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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

で、紫錦はどこにいるな?」

「江戸にいるよ。この江戸にな」

「江戸はどこだ? え、江戸は?」

「日本橋だよ。酒屋にいるんだ」

「日本橋の酒屋だって?」

「伊丹屋という大金持の養女になっているんだよ」

「ふうん、伊丹屋の? ふうん、伊丹屋のな?……ああ、夢にも知らなかった」

葉村一座と呼ばれる所の浅草奥山の玉乗の元締、それをしている「爺つあん」は、どうしたものかこう云うと涙をポロポロ零したが、そのまま夜具へ顔を埋めた。

驚いたのはトン公であった。ポカンと「爺つあん」を眺めやった。

9

チョンチョンチョンと拍子木の音がどこからともなく聞こえてきた。

「おや、どうしたんだろう? あの拍子木の音は?」

お錦は呟いて耳を澄ました。

「トン公の拍子木に相違ないよ」

そこで彼女は部屋を抜け出し裏庭の方へ行って見た。木戸の向うに人影が見えた。下駄を突っかけると飛石伝いに窃と其方へ小走って行った。燈火の射さない暗い露路に小供が一人立っていたが、しかしそれは小供ではなく思った通りトン公であった。

「トン公じゃないか、どうしたのさ?」

するとトン公は近寄って来、

「よく拍子木が解ったな」

「お前の打手を忘れるものかよ」