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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

「はアてね、こいつアおかしいぞ」

首を擡げて聞き澄ましたが、にわかにムックリ起き上った。周囲を見ると女太夫共が、昼の劇しい労働に疲労、姿態構わぬ有様で、大鼾で睡っていた。

それを跨ぐとトン公は、楽屋梯子を下へ下りた。

暗い舞台の隅の方から、黄色い灯の光がボウと射し、そこから口笛が聞こえてきた。

誰か片手に蝋燭を持ち、檻の前に立っていた。と、檻の戸が開いて、細長い黄色い生物が、颯と外へ飛び出して来た。

「おお可し可し、おお可し可し、ネロちゃんかや、ネロちゃんかや、おお可い子だ、おお可い子だ……」

口笛が止むとあやなす声が、こう密々と聞こえてきた。フッと蝋燭の火が消えた。しばらく森然と静かであった。と、暗い舞台の上へ蒼白い月光が流れ込んで来た。誰か表戸をあけたらしい。果して、一人の若者が、月光の中へ現われた。肩に何か停まっている。長い太い尾をピンと立てた、非常に気味の悪い獣であった。

月光が消え人影が消え、誰か戸外へ出て行った。

「思召しは有難う存じますが……妾のような小屋者が……貴郎のような御大家様の……」

「構いませんよ。構うもんですか……貴女さえ厭でなかったら……」