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おおとりものせんにんつぼ

大捕物仙人壺

国枝 史郎

「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页

青空文庫

「ふうむ、それで、厭とおっしゃるか」さも案外だと云うように、

「しかし、それでは卑怯でござるぞ」

「負けると知って剣を合わせ、万一の僥倖を期する者こそ、即ち卑怯と申すもの。拙者はそれとは反対でござる」

「なるほど」と浪士はそれを聞くと、どうやら感心したらしかった。「と申してこのままお帰ししては、秘密の洩れるおそれがある。いよいよお立合い下さらぬとあっては、お気の毒ながら一刀の下に……」

「よろしゅうござる、お斬りなされ」

いよいよ不可ないと知ってからは、却って捨身の度胸が定まり、義哉の心は澄み返った。そこで、膝へ両手を重ね、頸をグイと前へ延ばした。

それと見てとると例の浪士は、やおら立ち上って太刀を抜いたが、「神妙のお覚悟感じ入ってござる、何か遺言はござらぬかな」

「左様」と云って首をかしげたが「ちょっと三味線をお貸し下され」

ここに至って浪士どもは、唖然たらざるを得なかった。

「何になさるな?」と例の浪士が訊いた。

「中途で弾き止めた清元の『山姥』、今生の思い出に了えとうござる」

「ははあ」と云うと例の浪士は、仲間の者と眼を見合わせたが、やがて頤で合図をした。