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おおとりものせんにんつぼ
大捕物仙人壺
国枝 史郎
「太陽」博文館、1925(大正14)年7月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,606 字 · 97 页
と思わず呟いた、居合抜にしたもう一人の浪士は、「ウーン」と深い呻声を洩らし、商人に扮した二人の浪士は顔と顔とを見合わせた。
一座の頭領と思われる、琵琶師風の一浪士は、刀の柄を握ったまま堅くその眼を閉じていた。
時はズンズン経って行った。
伊庭八郎とその同志は、勝安房守の指図の下に、毛脛屋敷の表戸を、踏み破ろうと待ち構えていた。
「まず待つがよい」
と安房守は云った。「めったに聞けない名人の曲だ。唄い終えるまで待つとしよう」
それで、一同は鳴りを静め、三味線の絶えるのを待っていた。
さてそれから行なわれたのが、その当時の人が噂した所の「毛脛屋敷の大捕物」であり、そうして後になってその捕物が「仙人壺」というものに関係あり、と知り、改めて「大捕物仙人壺」と呼んだ、その風変りの捕物であった。
何故この捕物が風変わりであり、何故有名になったかというに、先づ第一にそれを指揮した者が、勝海舟という大人物であり、捕物の衝にあたった人物が、伊庭八郎とその門下という、これも高名の人々だったからで。……
そうして捕えられた者共が、千代田城へ放火しようとした精悍な浪士の一群と、当時江戸を騒がせていた、鼬使いの香具師一派という、風変わりの連中であったからである。