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だいのうしゅじゅつ

大脳手術

海野 十三

「富士」1945(昭和20)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,185 字 · 31 页

青空文庫

始めの二三日は、むしろ楽しきことであったが、四日五日と経て行くうちに、この商売が決して楽なものではないと分った。いやむしろよほどの体力がないとやれない仕事だと分った。しかし私は屈しなかった。

風邪を引込んだが、私は休まなかった。水洟を啜りあげながら、なおも来る夜来る夜を頑張り続けた。さりながらその甲斐は一向に現われず、焦燥は日と共に加わった。珠子とあの仇し男とは、余程巧みに万事をやっているらしい。

ところが突然、一つの機会が天から降って私の前へ落ちて来た。それは立商売を始めてから四週日の金曜日の宵だったが、坂の上の方から折鞄を小脇に抱えた紳士が、少しく酩酊の気味でふらふらした足取で、こっちへ近づくのが何故か目に停った。

「あ、瀬尾教授!」

おお、間違いなく瀬尾教授だ。このとき私の頭脳に稲妻の如く閃いた一事がある。

(ははあ、この先生のことかもしれぬ。私はうっかりこの先生と珠子との結びつきを忘れていたぞ。そうだ、珠子から私の脚を贈られたのは、この瀬尾教授かもしれない。よし、今それを改めてくれるぜ)

私の胸は踊った。後は何が何やら夢中である。もう恐さも恥かしさもない。