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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
してみれば、これは侍だ。農工商、或いは山方へ出入りの木樵炭焼で、詩を吟じて歩くようなものはないはず。
侍ならば、まさしく塩尻峠の連中があとを慕うて来たのだ。どうしよう、あの人たちの立退くまで、わたしたちは隠れていなければならない。一日や二日ならば隠れおおせるが、もしあれがわたしたち同様に、冬籠りをするつもりで来たとすればどうしよう、ほとんど逃れる道はない――
お雪は、一緒につれた浅吉の身の上よりは、自分たちの近い将来が心配になって、急いで宿へ帰り、浅吉をその部屋へ送り届けて、自分たちの部屋の障子をあけようとすると、中からあわただしくそれを押しあけて、
「お雪さん、お帰りなさい」
と飛んで出た後家さん。その上気した顔と、息のはずんだあわてぶりが、この人らしくもないと思いながら、
「ただいま帰りました」
そうして一歩なかへ入って、枕を横にしている竜之助の顔を見ると、それが人を斬ったあとのように冴えておりました。
幸いにして、山を下って来た笠の一隊は、お雪が心配したほどのものではありませんでした。木曾路を取って京都へ帰ろうとした神楽師の一行が、ふと道を間違えて、こちらへ入り込んだからやむを得ず、安房峠を越えて、飛騨へ抜けようとのことです。