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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
と笑ったのも道理。道庵は、馬の頭の方へ自分の尻を向け、馬の尻の方へ自分が向いて乗込んだものだから大笑いです。
「ナアーニ、これが本格だ」
道庵はすましたもので、向きをかえようとも致しません。
「は、は、は、旦那は御冗談者だ」
馬方どもが笑いますが、道庵は笑いません。
「坂東武士が、敵にうしろを見せるという法はねえ」
さては、先生、大名の行列を見て戦わざるに逃げた余憤がこんなところへ来て、負惜しみをやり出したな。
しかし、先生が頑としてこの乗り方を改めないものですから、馬方もぜひなく、そのまま馬をひき出しました。
ですから、通行の人が指さしては笑います。
それをいっこう取合わない道庵は、
「なあに、これが本格の乗り方だよ、笑うやつは古式を知らねえのだ」
というが、大坪流にも、佐々木流にも、こんな乗り方はなかったはず。
ははあ、読めた。熊谷の蓮生坊が上方から帰る時は、西方浄土を後にするのを本意にあらずとして、いつでも逆に馬に乗って『極楽に剛の者とや沙汰すらん、西に向ひて後ろ見せねば』と歌をよんだ。先生、その伝を行っているのだな。しかし、東に向いたのでは意味をなさない……やはり、いまおびやかされた、大名の行列に対する意地張りでしょう。