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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

だから、力があったって、喧嘩をすることなんかできやしねえ」

「力は喧嘩のためにばっかり使うもんじゃあるめえ」

「だって喧嘩の時に使わなけりゃ、力があったって詰らねえや」

「そうでもあるめえ」

その時、子供の一人が急に下の方をながめて、

「ああ、それムクが来たよ」

「ムクが来た」

子供たちのすべてが傘をあみだにして下段の方を見ると、ムク犬が首に小笊を下げて、悠々とのぼって来る。

今ではこの犬も、同じところの屋敷に、同じように客となっている。

そうして、小笊を首に下げては、里へ買物に行くのを仕事の一つとしている。最初は怖れていた村の子供も、今はこの犬を畏愛するようになっている。

子供たちはムクを中にとりまいて上りはじめる。お化けのことも、お人好しのことも、もう問題にはなっていない。

「犬ハヨク夜ヲ守ル、人ニシテ犬ニ如カザルベケンヤ」

背の高いのが、大きな声で叫び出す。

「太郎ドンノ犬ハ白キ犬ナリ、次郎ドンノ犬ハ黒キ犬ナリ」

負けない気で、あとをつづけた鼻垂小僧。

「油屋ノ縁デスベッテコロンデ……」

と歌い出した涎くり。

こうして犬を擁した子供らは、石段をのぼりつめて冠木門をくぐると、