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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

そこで、この屋敷が、これだけでも、以前の染井の化物屋敷に劣らぬ怪物の巣となりつつあることがわかります。

二十八

今日は夕焼のことに赤い日。葉鶏頭の多い月見寺の庭を、ゆきつ、もどりつしている清澄の茂太郎は、片手に般若の面を抱えながら、器量いっぱいの声で、

やれ行け

それ行け

早駕籠で……

早駕籠で……

赤いもんどの

暁の鐘

そりゃ、暁の鐘

と歌いながら、夕焼に赤い西の空に向って、歩調を練習する兵隊さんの足どりで、行きつ、戻りつしていましたが、またも繰返して、

やれ行け

それ行け

早駕籠で……

早駕籠で……

赤いもんどの

暁の鐘

そりゃ、暁の鐘

例の弁信法師が積み上げた石ころのところまで来ると、左に抱えていた般若の面を、右に抱え直して、廻れ右をし、

お前とわたしと

駈落しよ

どこからどこまで

駈落しよ

鎌倉街道、駈落しよ

鎌倉街道、飛ぶ鳥は

鼻が十六、眼が一つ

いい心持で、声を張り上げている時、弁信が縁へ現われて、

「茂ちゃん」

「あい」

「あんまり出鱈目を歌ってはいけません、鼻が十六、眼が一つなんて鳥はありませんよ」

「そうか知ら」

「きまっているじゃないか、考えてごらん、十六の鼻を面のどこへつけます」