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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

といって、こういう男の義憤も、一概に軽んずるというわけにはゆきますまい。

「私だって男だ」

浅吉は、わくわくとして、ひとり憤りを発していましたが、まだ誰も帰って来ません。自分ひとり、腹を立っているのだということがわかりました。

三十

机竜之助はこの日、湯の宿を出て小梨平の方へ歩いて行きました。

かたばみの紋のついた黒の着流しのままで、頭と面は、頭巾ですっぽりとつつんではいるが、その頭巾なるものが、宗十郎というものでもなく、山岡でもなく、兜頭巾でもなく、また山国でよく用うるかんぜん帽子というものでもなく、ただ、あたりまえの黒縮緬の女頭巾を、ぐるぐるとまいて山法師のかとうを見るように、眼ばかり出したものです。

四面はみな雪ですけれども、山ふところは小春日和。

白樺や桂の木の多いところをくぐり、ツガザクラの生えたところをさまよい、渓流に逢っては石をたたいて見、丸木橋へ来ては暫くその尺度をうかがって、スルスルと渡りきり、雑草多きところでは衣裳を裾模様のように染め、ある時は呼吸せわしく、ある時は寛々として、上りつ下りつして行きました。

このごろは、だいぶ身体もよくなったせいでしょう、こうしているところを前から見ても、横から見ても、誰も病人と見る者はないほどに、姿勢もしゃんとしているし、カーヴの甚だ急