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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

三十一

宿では、お雪ちゃんが炬燵に入って人形に衣裳しているところへ、竜之助がフラリと帰って来ました。

「あ、先生、お帰りなさいまし」

衣裳人形を片手にして、お雪は帰って来た竜之助を見上げると、竜之助は刀を床の間へ置いて、静かにお雪ちゃんと向い合わせの炬燵に手を入れました。

お雪はにっこりと笑って、

「お迎えに上ろうと思いましたが、たぶん鐙小屋だろうと思ってやめました」

「そうでしたか、わたしも、お雪ちゃんを誘って行こうと思ったが、歌に御熱心のようだから、一人で出かけましたよ」

「ええ、ずいぶん、あの先生偉い先生よ、お歌の方の学問では京都でも指折りの先生ですって……」

「それはいい先生が見つかって仕合せだ」

「全く仕合せよ、あなたには武術の護身の手というのを教えていただくし、あの池田先生には歌を教えていただくし……」

お雪は心から、自分の今の身の上の幸福を感じているらしい。そうして、今ちょっと手を休めた衣裳人形の着物の襟を合わせはじめると、竜之助が、

「お雪ちゃん、どうだ、乗鞍ヶ岳へのぼってみようではないか」

「え、お山登りですか、結構ですね。ですけれども……」