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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
ここで、こそこそと例の遊民どもは上陸し、乗客の大部分も下船しましたが、この二人は船の上に留まったまま、談論に耽っているのです。
聞くところによると田山白雲は、保田から上陸して房総をめぐり、主として太平洋の波を写生して帰るのだそうです。
白雲のいうところによると、古来、日本の画家で、水を描いて応挙の右に出づるものはないが、まだ大洋の水を写したのを見ない、房総の鼻をめぐって見ろと人から勧められたままに、出て来たのだということです。房総の海は自分に何を教えるか知らないといっている。
駒井は、自分の仮住居、洲崎の番所の位置をよく説明して、行程のうち、ぜひ足をとどめるようにとのことを勧め、田山は喜んでそれを請け入れました。
「わしは、こうして歩いていると、誰も画家とは見てくれないで困りますよ。いや困りはしません、結局、それが幸いになることもあるのです……そうです、十人が十人、拙者を武芸者だと睨んでかかるのですな。それが都合のよいこともありますが、滑稽を引起すことも珍しくはない。いや、武術も少しやるにはやりました。拙者の藩は小藩ですからな、僅かに一万石の小藩ですから、家老上席になったところで九十石の身分です。