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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
23 他生の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页
昔は、わたしが歌を教えて上げたんだけれど、今ではわたしより上手になってしまったわ」
「ははあ、そんなに歌が上手でしたか」
「上手ですとも。あなた、それで、あの子は声がよくって、歌うのが上手なだけではないのよ、自分で歌をつくって、自分で歌うのよ」
「そうですか、それはめずらしい」
「一つ歌ってお聞かせしましょうか」
「どうぞ」
「わたしは茂太郎ほどに上手じゃありませんけれど、それでも茂太郎のお師匠さんなのよ」
「何か歌ってお聞かせ下さい」
「何にしましょうか」
「何でもかまいません」
「それでは、わたしが茂太郎に、はじめて歌の手ほどきをして上げた、あれを歌いましょうか」
「ええ」
「それは子守唄なのよ」
「子守唄、結構ですね」
「それでは歌いますから、よく聞いていらっしゃい」
といって、女は胸に抱いているものをあやなすようにして、
ねんねがお守は
どこへいた
南条長田へとと買いに
そのとと買うて
何するの
ねんねに上げよと
買うて来た
ねんねんねんねん
ねんねんよ
そうすると、女が歌の半ばにほろほろと泣き出してしまいました。
田山白雲は胸を打たれて気の毒なものだと思いました。この年で、この容貌で、そしてこの病。