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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

でございます、それは日蓮様がお生れになる以前から、やはり南無妙法蓮華経と響いていたのでございましょう……海の波がしらは獅子の鬣のようだと、人様が申しましたが、私共が聞きますと、大洋の波の音は、獅子の吼える音とおなじなのでございます」

虫の鳴く音から誘われた弁信の耳には、東夷東条安房の国、海辺の怒濤の響が湧き起ったようです。

二

その時、塔の上では茂太郎が、けたたましい声で歌い出しました――

とっつかめえた

とっつかめえた

星の子を

とっつかめえた

星の子を

とっつかめえて

五両に売った!

五両の相場

五両の相場は誰が立てた

八万長者のチョビ助が!

けれども、下にいた弁信法師の耳には、この時海潮音の響がいっぱいで、茂太郎のけたたましい声が入りませんでした。

弁信法師は今黙然として、曾て聞いた片海、市河、小湊の海の響を思い出しているのです。梵音海潮音はかの世間の声に勝れりという響が、耳もとに高鳴りして来たものですから、その余の声を聞いている遑がありません。

こうして、天上のあこがれと、地上の瞑想が、二人の少年によって恣にされている時、その場へ不意に一人の殺生者が現われました。