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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

誰も知っている通り、当時、江戸の町には三大剣客の道場があった。神田お玉ヶ池の北辰一刀流千葉周作、高橋蜊河岸の鏡心明智流の桃井春蔵、それと並んで、練兵館の斎藤弥九郎。おのおの門弟三千と称せられて、一度その門を潜らぬものは、剣を談ずるの資格がない。

殺気満々たる長州の壮士連十余人の一団は、斎藤の道場を微塵に叩き潰す覚悟をきめてやって来たのだから、その権幕は、尋常の他流試合や、入門の希望者とは違う。

ところで、これを引受けた斎藤の道場には、長男の新太郎がいない。やむなく、次男の歓之助が出でて応わねばならぬ。

歓之助、時に十七歳――彼等壮士の結構を知るや知らずや、従容として十余人を一手に引受けてしまった。

もとより、修行のつもりではなく、復讐の意気でやって来た壮士連。立合うつもりでなく殺すつもり。業でいかなければ、力任せでやっつけるつもりで来たのだから、その猛気、怒気、当るべからざる勢い。歓之助、それを見て取ると、十余人を引受け、引受け、ただ単に突きの一手――得意中の得意なる突きの一手のほか、余手を使わず、次から次と息をつかせずに突き伏せてしまった。

哀れむべし、長州遠征の壮士。