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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

追いかけて、つかまえたのは、さいぜん道庵先生が嘲笑った三人連れのお差控え候補者の中の、いちばん年かさな侍の刀の鐺です。

「すわ」

と、北国街道がドヨめきました。

「何、何事だ」

刀の鐺をつかまえられた侍はもちろん、三人ともに眼に角を立てて立ちどまりますと、くだんの悪体な馬子が、怒りを向う鉢巻の心頭より発して食ってかかり、

「見ねえ、あ、あれを、どうしてくれるんだい、やい、あの提灯をよう」

「ははあ、あれは貴様のか、急いだ故につい粗忽を致した、許せ」

年かさな侍が陳謝して過ぎ去ろうとしたのは、たしかに自分が、右の馬子とすれちがいざまに、あの提灯に触って振り落したという覚えがあるから、聞捨てならぬ悪口ではあるが、軽く詫びて通ったのが勝ちと思ったからです。

「何、何をいってやがるんだ、あれは貴様のか、急いだためついしたそそうだと……よく目をあいて拝みやがれ、あれは加賀様の御用の提灯だわやい」

かさにかかった悪態の馬子は前へ廻って、件の侍の胸倉を取ってしまいました。そこで軽井沢の全宿が顫え上りました。

道庵先生は、これは自分の頭へ提灯が降って来た以上の出来事だと思いました。