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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

「いけない、ああいうのはいけない、度胸を据えてかかっている仕事には、武田信玄でも手が出せない」

「ホントに焦ったい」

酔わない時は、神尾にもどこか鷹揚なところがある。お絹はそれを焦ったがっている。

「ねえ、あなた、今日は七兵衛の奴が珍しくどこかへ出かけてしまいました、その後に鎧櫃が置きっ放しにしてありますから、見るだけでも見て下さい」

「鎧櫃がどうしたの」

「その鎧櫃の中に、見せびらかしの金銀がいっぱい詰め込んでありますのを、置きっ放して七兵衛の奴が、珍しく早朝からどこかへ行きましたから、見るだけ見ておやり下さいと申し上げているのです」

「見たって仕方がないじゃないか、金銀は見るものではなくて使うものだ、使えない金銀は、見たって仕方がない」

「あれだ、あれだから、お殿様は仕方がない――」

とお絹は神尾主膳の膝をつっつきました。酒乱の兆さない時の神尾主膳は、つっつきたくなるほどに気のよく見えることもある。

「仕方がないったって仕方がない――無い袖は振れないから」

「有り過ぎるのです、鎧櫃の中には、金銀のお銭が有り過ぎて唸っているじゃありませんか。天の与うるものを取らざれば、禍その身に及ぶということを御存じはありませんか」