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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

「殿様、ごじょうだんをあそばしちゃいけません、御入用ならば、そのままそっくりお持ち下さればいいに……」

七兵衛は、いつまでも障子の外から、こっちを覗いてニタリニタリと笑っているばかり。

「七兵衛、天下の財宝を粗末にするな」

と主膳がいう。

主膳も、多少の酒と、黄金の光に、一時眩惑されて兇暴性を発揮してみたけれど、今宵の酒量は乱に至るほど進んではいず、黄金性の魅惑は、かりにも所有主と名のつく者が来てみれば、幻滅を感じないということもなく、こうなってみると、手にさげている槍までが手持無沙汰で、引込みのつかない形です。

お絹もまた、室内に燦爛たる黄金の光をいまさら、袖で隠すわけにもゆかず、拾い集めて当人に還付するのも変なもの、ほとんど立場を失った形で、てれきっている。

第一、所有主そのものが、怒りもしなければ、怒鳴りもせず、外でニタニタ笑っているばかりですから、空気の緊張を欠くこと夥しい。妙な三悚みが出来上って、この室内のてれ加減がどこで落着くか際限なく見えた時、気を利かしたつもりか、お絹の持って来て畳の上へ置いた手燭の蝋燭がフッと消えました。これは蝋燭が特に気を利かして、この場のてれ加減を救ったというわけでもなく、風が吹き込んで吹き消したのでもなく、慾に目の眩んだ人間のために顧みられなかったものだから、以前は、