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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
知らないほど怖いことはない。裸松とても、道庵がソレほどの勇者であると知ったら、少しは遠慮もしたろうに。道庵としても、こいつが街道名代の悪で、五人力あるのが自慢で、人を見れば喧嘩を吹っかけるのが商売だと知ったら、少しは辛抱もしたろうに。何をいうにも、道庵は酔っています。この、ひょろひょろしたお医者さん体の男が、いきなり飛んで来て前袋へ食いついたから、さすがの裸松がその勇気に驚いてしまいました。少なくとも、自分を向うへ廻して腕ずくで来ようという奴は、上は善光寺平から、下は碓氷の坂本までの間にあるまいと信じていたところ、その自信をうらぎって、ちっとも恐れず武者ぶりついて来た勇気のほどには、裸松ほどのものも、一時力負けがして、こいつはほんとうに柔術でも取るのか知らと惑いました。
必死となって裸松の前袋に食いついた道庵は、そこで、やみくもに身ぶりをして、ちょうど器械体操みたようなことをはじめたから、一旦は戸惑いした裸松が、ええ、うるせえ、一振り振って振り飛ばそうとしたが、先生は、しっかりと前袋にくいついて、離れようとはしません。
その間に――悧巧な例のお差控え連は事面倒と見て、道庵にこの場をなすりつけ、三人顔を見合わせると、一目散に逃げ出しました。