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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
米友も、信玄と謙信とには、相当の予備知識を持っている。ことに道庵が甲陽軍鑑を楯にとって、滔々とやり出す川中島の合戦記には、米友も知らず識らず釣込まれ、感心して聞いているものだから、道庵も、いよいよいい気になって、喋るだけ喋ると、喋り疲れて、瓢箪を枕にゴロリと横になって、早くも鼾の声です。
夜もすがら川中島の月を見て、明日は善光寺という約束だから、米友もぜひなく、旅の合羽を開いて道庵の上に打着せ、自分は所在なさに槍を抱えて河原の中へ、そぞろ歩きを始めたものです。
犀川の岸を、そぞろ心に米友が歩むと、行手に朦朧として黒い物影。吾行けば彼も行き、吾止まれば彼も止まる。米友は夢心地でその影を追いました。
四郡を包む川中島。百里を流るる信濃川の上。歩み歩むといえども、歩み尽すということはありません。いわんや、立ち止まって月を見ると、四周の山が月光に晴れて、墨の如く眼界に落ち来る。
月を砕いて流るる川の面を見ると、枚を含んで渡る人馬の響きがする。その響きに耳を傾けると白巾に面を包み、萌黄の胴肩衣、月毛の馬に乗って三尺余りの長光を抜き翳した英雄が、サッと波打際に現われる。