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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

ある者は型から入って自由の妙境に遊び、ある者は野性を縦横に発揮して、初めて型の神妙を会得する。

無論、宇治山田の米友のは、その後者に属するものであります。

今や、米友は陶然として、その型に遊ぶの人となりました。

こんなことは滅多にないのです。かつて、甲府城下の闇の破牢の晩に、この盛んなる型を見せたことがありましたが、あの時は如法暗夜のうちに、必死の努力でやりました。今夜のは月明のうち、興に乗じて陶然として遊ぶのです。

その型の美しさ――すべての芸道において、型の神妙に入ったものは、先以て美しいというよりはいいようがない。

惜しいことにこの美しさを見るものが、月と、水とのほかにはありません。

米友が陶然として型に遊んでいる時、その型を破るものは道庵先生の声であります。

「こいつは堪らねえ、こいつは堪らねえ」

道庵が突如として、うろたえ声で騒ぎ出しましたから、米友が、一議に及ばず馳せ参じました。

見れば莚の上に眼を醒ました道庵は、合羽をかなぐり捨てて頻りにうろたえている。

聞いてみると、今まで自分がいい心持で眠っているところへ、不意に何物か現われて、鼻っぱしをガリガリと噛ったものがあるから、驚いて跳ね起きたところだという。