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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

道庵が感心した顔をしてしきりに耳を傾けているものだから、米友も聞きたくなり、人の間をうろうろしてみたが、押しあけて中へ進むわけにもゆきません。

それを一段聞くと道庵がしきりに昂奮して、軽井沢で発心した武者修行の謀叛が、むらむらと頭を擡げました。

祭文語りの悲壮な語りぶりが、はしなくも、道庵の武士道心を刺戟したものかも知れません。

さあこの善光寺を振出しに、明日からは、いよいよ武者修行の姿となって、木曾街道を上方までの道場という道場を荒してくれよう――と道庵はしきりに昂奮をつづける。

この祭文語りが、もう少し近代風に、曾我をやるとか、義士伝を講ずるとかいうならば、道庵の昂奮もその謂れがないではないが、何をいうにも、この祭文語りは山伏に近い古風なもので、ことに語り物が、哀婉たる苅萱道心の一節と来ているのだから、多少の菩提心をこそ起せ、そう無暗に昂奮して、武者修行熱を起した道庵の心持は解せないものだが、道庵に言わせると、また立派にその謂れがあるのかも知れない。

実をいうと、道庵の武者修行熱は必ずしも軽井沢に始まったというわけではなく、そのずっと以前から萌しているので、一度はどうか武者修行をやって、至るところの道場という道場を、片っぱしから荒して歩きたいという念願が、離れたことはなかったのであります。