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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

がある。その物語たるや極めて興味あるエピソードとなすに足る。

件の物語の主人公は祭文語りであって、その祭文語りが、無能が大能に通ずるの真理を極めて滑稽なる仕方で現わしたところに、無限の興味があります。

十九

天保の初め頃、神戸に一人の祭文語りがあった。この男、身の丈五尺九寸、体量二十七貫、見かけは堂々たるものだが、正味は祭文語り以上の何者でもなく、祭文語り以下の何者でもない。芸名を称して山本南竜軒と呼び、毎日デロレンで暮している。

男子生れて二十七貫あって、デロレンでは始まらない、と先生、ある日のことに、商売物の法螺の貝を前に置いて、つくづくと悲観する。

ところへ友達が一人遊びにやって来て、大将何を考え込んでいるのだと言う。

身の丈が六尺、図体が二十七貫もあって、デロレンでは情けないと、今もこうして、法螺の貝を前に置いて、涙をこぼしているところだ。そうかといって立身するほどの頭はなし、商売替えをするほどの腕もなし……何かいい仕事はないかい。

あるある、そのことなら大ありだ。実はおれもつくづく日頃からそれを考えていたのだ。全くお前ほどのものを祭文語りにして置くのは惜しい、お前、やるつもりなら打ってつけの仕事がある――と友達がいう。