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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
本はないと思いました。
なぜ、もっと早く、こんな面白い本を読まなかったのだろう。尤も、出版はされず、写本として知人に配布されただけの書物だということだから、今まで自分の眼に触れなかったのも止むを得ないが、いま読んでも、読むことの遅かったのを悔ゆるばかりです。
第一、その文章からして、従来の漢学臭味を脱している上に、平易明快で、貝原益軒をもう少し大きく、明るくしたような書きぶりが頭に残ります。
それにしても著者は何者。署名はなくて、ただ、「江戸、鉄砲洲某稿」としてある。当代に名だたる洋学者の筆のすさびだろうとは思われますが、誰とは当りがつきません。例えばその文章は、
「先年、亜米利加合衆国よりペルリといへる船大将を江戸へ差遣はし、日本は昔より外国と付合なき国なれども……」
という書出しで、諸外国と交誼を修し、通商貿易を求めに来るのを、
「日本国中の学者達は勿論、余り物知りでなき人までも、何か外国人は日本国を取りにでも来たやうに、鎖国の、攘夷の、異国船は日本海へ寄せ付けぬ、唐人へは日本の地を踏ませぬなど、仰山に唱へ触らし、間には外国人を暗打にするものなど出来て、今のやうに人気の騒ぎ立つは、ただ内の騒動ばかりでない、斯く人心の片意地なるは世間へ対しても不外聞至極ならずや。