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だいぼさつとうげ
大菩薩峠
中里 介山
24 流転の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页
これこそ求めても得られない絶好な画題だ、と白雲が意気込みました。
この白熱の興味が、ついに白雲をして五日の間に「妖童般若」の大額を完成させてしまいました。その作たる、われながら見とれるほどの出来と見ましたけれど、白雲はそれに愛惜するの暇を与えずに、早くもここを出立するの用意を整えてしまい、
「茂坊、さあ、今日は房州へ立つんだぞ」
「え、房州へですか、おじさん、今日?」
「そうだよ」
「房州というのは、あのおじさん、鋸山のある日本寺の、お嬢さんのいる房州なの?」
「そうだとも」
「あたいを、その房州へ連れて行ってくれるの、今日!」
「うむ」
「じゃ、あたい、久しぶりで、あのお嬢さんに会えるんだ」
「会わしてやるとも」
「ほんとに夢のようね、おじさん、もしかして清澄のお寺へ入れちまうんじゃない?」
「そんなことがあるものか、さあ行こう」
「ああ、うれしい」
少年は欣然として勇み立ちました。
この出立はむしろ出奔に近い。白雲ほどのものがどうしてこうも慌しいのか、と怪しまれるほどに大急ぎで、絵が成ると共に装いを整え、その場で置手紙を一本書き――その手紙には、二枚の西洋画を特別に大切に保存しておくように書き残しただけで、自分の作のことは書かず。