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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

しかし、番付いっぱいに「市川海土蔵」が書いてあるものですから、どこに外題があるのかよくわかりません。仔細に注意して見ますと、ようやく、岩見重太郎も、水戸黄門も、「海土蔵」の名前の下に小さくなっているのを見つけ、これでよかったと安心しました。

米友は、自分は興行に使われたことがある。両国の大きな小屋で擬物の黒ん坊にされていた経験があるから、多数の見物には驚かないが、自分がお客となって芝居見物をするのは今日が初めてですから、一種異様な感情に漂わされて場内を見廻しておりました。どこを見廻したところで、ここには米友の見知った面は一つもありません。

こうしているうちにも、周囲は海老蔵の噂で持切りであります。海老蔵でなければ役者でないようなことをいいます。そうして、もう今までに五度も六度も海老蔵を見て、海老蔵と親類づきあいをしているように吹聴しているものも少なくはないようです。ところが米友は、海老蔵も鯛蔵もまだ見たことはない。自分は海老蔵や鯛蔵を見に来たのではなく、芝居というものを見に来たのだから、早く幕があいてくれればいいなと思いました。

それにしても、先生がいやにおとなしいと米友が見返りました。