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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

24 流転の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 159,272 字 · 313 页

青空文庫

「よろしい、その切支丹をひとつ描きましょう」

と言いました。これが負けず嫌いのお角を喜ばせたこと一方でなく、相手をいいこめて、自分の主張が通ったものでもあるように意気込んで、

「描いて下さる、まあ有難い、それで本望がかないました」

それから一層心をこめて白雲を款待しました。白雲も久しぶりで江戸前の料理に逢い、泰然自若として御馳走を受けていましたが、今宵は、いつものように乱するに至らず、ひきつづいて駒井甚三郎の噂。駒井のために一枚の美人画を描いてやったが、それが、自分ながらよく出来たと思い、駒井も大へん気に入って、この脇差をくれたということ。それから、いいかげんのところで切上げる用心も忘れないでいると、お角が、

「ねえ先生、お差支えがなければ、わたしどもへおいで下さいませんか、二階が明いておりますから、いつまでおいで下さっても、文句をいうものはございません、そこで、どうか精一杯のお仕事をなすっていただきとうございます」

お角は背中の文身を質においても、奉納の額に入れ上げる決心らしい。

七

田山白雲がお角の宅へ案内されて、二階のお銀様の居間であったところに納まると、お角はとりあえず、かなり大きな二つの額面を戸棚から出して、白雲の前に立てかけました。